たった一行に、胸が苦しくなる自分がいる。

会えばまた、心が揺さぶられるの、

わかってるから、行きたくなかった。

でも、行かないわけにはいかないしな…。


いつもどおり玄関のカギは開いていて、

勝手に修ちゃんの部屋まで上がっていく。

軽くノックすると、


「おせーぞ!」


ドアが開くのと同時に、不機嫌そうな声が頭の上から降ってきた。

なんだ、全然元気そう。


「ごめんなさーい」


とりあえず、ここは素直に謝っておくことにして。


「ん?なんだ、このニオイ」


部屋に入るなり、修ちゃんが言った。


シャワーを浴びたばっかりの私は、

自分のニオイが気になって、思わず二の腕を嗅いでみる。

すると、修ちゃんは、

無造作に私の髪をひと束すくい取り、毛先に顔を寄せた。


「これだよ、原因」


って言いながら、今度は髪の根元から、

櫛のように、その手で髪を梳いていく。

何のためらいもなしに、

修ちゃんは、そうやって私に触れるんだよね。

こんなの、慣れっこなはずなのに、

チクンと胸の奥が痛む。

気持ちを切り替えようと、

机の上に置かれた、

ふせんだらけの参考書に手を伸ばし、

パラパラめくった。