203号室で暮らそう

私の部屋に価値のあるものなんて別にないから、例え陽景くんがドロボーさんだったとしてもいいんだけどね。

「合鍵……ありがとう」
 
彼はサワヤカスマイルを見せると、片手を挙げ、その場を去って行った。
 
私はただしばらく、彼の背中を見ていた。
 
華奢な体、スラリと伸びた背。
 
日に透けて金色に見える髪の毛。
 
柚実の言うとおり、確かにカッコイイ。
 
公園でホームレスの如く、横たわっていたひとだったとは、今となっては想像もつかない。
 
合鍵を渡したのはいいけれど、彼のお家ってどこなんだろう。
 
なんて、ちらっと思い、私は踵を返し、そのままバイト先へと向かった。