203号室で暮らそう

「木綿花? オマエ――」
 
白髪の教授が教壇から降りたと同時に、私を呼ぶ懐かしい声がした。
 
思わず私は振り返ってしまって……体がビクついた。
 
そこには、彼、井上雄輔が、いたから――。
 
黒い髪を短く切りそろえていて、小柄。相変わらず眉は太くて、凛々しい。

「オマエ、その隣の男……」
 
陽景くんを指さして、そして口をぱくぱくとさせた。
 
そしてゆっくりとうな垂れ、“いや、何でもない……”と指さした手を下ろした。

「……彼女さん、お元気?」
 
咄嗟に出た私の言葉に、雄輔はああ、と声を漏らして、そのまま立ち去ってしまった。