203号室で暮らそう

「日浦さん、9番入っていいわよ」

ありがとうございましたー、と会計を済ませたお客に一礼すると、レジチーフが私の背後に来て、そっと耳打ちをした。

9番――レジ列の番号ではなく、休憩のことだ。

ああ、砂漠のオアシスに行ける……。

たかだか10分の休憩だけれど、充分こころ休まる。

立ちっぱなしの脚にも、休みを入れてあげると大分楽になる。

私は売り場店舗の奥にある、銀色の観音開きの扉をくぐると、そのまた奥にある休憩室へと入った。

その中には、レジ部門以外で働くひとたちも休憩をとっている。

事務服姿で、お茶を飲んでいるおじちゃん。

商品陳列担当の作業服を着て、このお店の品物のお弁当を食べている
お兄ちゃん。
 
白い衛生キャップを被って、たくあんをつついている畜産加工のおばちゃん2人――は、私に気がつくと声をかけてきた。