203号室で暮らそう

オレンジ、ピッ。
 
お肉、ピッ。
 
スキャンしたものを、空のカゴの中へ入れていく。

「――あら、ちょっとお姉さん、このオレンジ、色が悪いんじゃない?」
 
私が左手でカゴへ入れたものを見て、大柄なおばちゃん客はそう言った。

「あっ、す、すいません。今すぐ、とりかえて来ます――」

「どうして鮮度の悪い商品を置いておくのかしらねぇ」

「申し訳ありません。少々お待ちくださいませ」
 
私はそのオレンジを手に取り、青果部のコーナーへと走った。

――ま、たまにこうやってあれこれクレームつけてくるお客もいるけどね。

苦痛じゃないよ、これも仕事のうち。