203号室で暮らそう

「失恋なんて、そりゃあいくらでもしてきたさ」

「いくらでも、なんて……陽景くんでも?」

「あはは。当たり前だよ」
 
彼の顔から、笑い声とともに笑顔が消えた。
 
そして、まるで自分を嘲るかのように言葉を吐いた。

「……長年思ってきた子が、まさか俺の親父の、再婚相手になるだなんて……今までで一番のショックだった」

「……え? 陽景くん、お母さんは……?」

「ああ、俺がみっつの時に死んだよ。俺はそれから、乳母に育てられてきた。家にはお手伝いさんもいて、さして淋しい家庭ではなかったけれど」