203号室で暮らそう

「立派ね」

「まあね。支店も全国にいくつかあるけど、ここが本店。俺はおんぞーしってわけ」
 
両手を天井に放って彼は言う。
 
そうか。
 
どこか気品が漂っていたのは、この成り立ちのせいだったんだ。

「将来は、俺がオーナーになることが決まってるから、ボーイは下積みってわけ現場を見ないとね。そのうち、経営学なりもっともっと勉強しなきゃいけない」

「……そう……」
 
陽景くんは、無職さんでも浮浪人でも学生でもなかったんだ。

「お金も地位も、黙っていても、手に入る。だけど、恋だけは掴むことができなかった」
 
失恋したてで、私と出会った頃の陽景くんは、生気のない瞳をしていて、まるで幽霊みたいにふらふらしていた。