203号室で暮らそう

切符を通すのを忘れて、改札口の閉まったゲートに体当たりしてしまった。
 
気を取り直して、今度はきちんと切符を吸い込ませ、そして。
 
そして、ゆっくりと陽景くんの元へと、近づいていった。
 
ちゃんと、彼の空気を感じることができるほどの、距離に、立った。

「ふふ。ペアルックだね」
 
陽景くんに買ってもらったおそろいのパーカーを着てきたのに、彼は気づいてくれた。
 
他愛もない、一声だった。

「うん……ペアルック」

「久しぶり」

「うん……久しぶり」

「……」
 
陽景くんは、次の何らかの科白を言おうと、口を開いた。
 
けれども、開いた口からは、何の言葉も放たれなかった。
 
その代わりに、懐かしい笑みを見せてくれた。