203号室で暮らそう

こころの中が、しんとしている。
 
まるで静寂。
 
失恋したからと言って、このベンチで気の抜けた状態だった彼の気持ちが、今は凄くよく解るよ。
 
私、陽景くんがいなくなって、胸にぽっかりと穴が開いた。
 
その穴から、“会いたい、会いたい”という気持ちがこんこんと湧いてくる。
 
そして、その思いは――涙と化して、頬を伝う。
 
やりきれなくて、せつなくて、声に出てしまう。

「陽景くん……陽景くん。もう会えないの? 二度と会えないの……?」
 
パーカーの袖を目頭に当てた。
 
陽景くんから、プレゼントされたパーカー。
 
涙で濡らしてしまう日が来るだなんて、思ってもみなかった。
 
陽景くんのことを、思って泣くだなんて――。