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 一方その頃、――



 かつて巨大な王国として栄えた土地の、豪勢な城では異変が起きていた。






 暗殺部隊《オーディン》の根城となってからもその荘厳な出で立ちを崩すことなく立つそれ。




 ...しかしそれも、昔の話。




 今、その城は跡形もなくなくなり、残骸だけが辺りに散らばっている。



 そんな中、数多くのがれき上に立つ、フェルダンの国章の模様が施された黒いマントに身を包む男たちが五人。



「アイゼン隊長ーやり過ぎじゃないっすか。王都跡の街もめちゃくちゃだ」


「ホントですよ。日頃のうっ憤を晴らしたいのは分かりますけど...せっかく綺麗な城だったのに」



 ボロボロになった《オーディン》の幹部たちを担ぎながらアポロとネロが不満を漏らす。



「ちょっと待てよー!!俺だけじゃないだろ!!お前らも好き勝手やったじゃないか!!こいつらもさっ!」




「俺は任務外のことはしないです。人のせいにしないでください」


「俺もー!」




 ラウルとウィズも、同様に一人嬉々として破壊行動を楽しんでいたアイゼンを冷めた目で見つめる。





 アイゼンは隊長ゆえに滅多に現場には出てこない。



 今回も本当ならばオーリングと共にフェルダンに居残る予定だったのに。



 いやだいやだと子供の様に駄々をこねたのだ。



 そして連れてきた結果が、このありさま。



 たった一人で街を半壊させ、城も粉々に壊してしまった。



 四人の若い騎士たちは呆れると同時に、アイゼンという男の底知れぬ強さに身震いがした。


 



 そんな騎士達がいる場所から少し離れた場所で、紫がかった黒髪を一つに束ねた女――ローグが一人の老人の胸ぐらをつかんでいた。



 老人の名はルノー。



 《オーディン》に仕える占星術師だ。



「...ゲホッ...ハア、その目元の入れ墨...お主、クダンだな」



「そうです。貴方はルノー・アストロジーですね。一族のはみ出し者と呼ばれていたはず」



「...天下のクダン様に名を覚えていただけるとは、光栄至極」



「黙りなさい。貴方は占星術師の面汚しですよ。貴方のお粗末な予言のせいで《オーディン》は滅んだのです」



 恥じなさい



 自分の力のなさを



「悔みなさい、フェルダンに手を出したことを」







 真っ赤なルビーの瞳で射すくめられたルノーはその場で固まる。



 ローグは年老いた占い師を一瞥すると、彼を残し去っていく。



 するとルノーは彼女の背中に向かって叫んだ。



「――ッ主は何を見た!!」



「...何、?」



「主の『眼』は何を見たのだ!?私には『白い魔王』だけしか...!!」



 クダン一族は占星術の世界において至宝とも呼べる存在。



 その彼女が、何を見ているのかが知りたかった。




「私たちが見るのは一つだけ」



「...一つ...」



「『全て』よ」



「...!!」




 ローグはそれだけ言うと、その場を静かに離れていく。



 その後姿を目で追いながら、ルノーはがくりと肩を落とした。