暗殺部隊《オーディン》のトップにして、ユウの実の父親
ロラン・アルシェ
長く伸びた真っ青な髪はユウとの血の繋がりを確かに感じさせる。
「どうした、ユウ。俺の顔を忘れたわけじゃあるまい」
ロランの、死んだ魚のような真っ黒な瞳と不気味な笑みを目にした途端、ユウの身体に反射的に悪寒が走った。
冷汗が伝い、小刻みに震え始める。
全身を恐怖の記憶が包んでいく。
暴力を振るう父ロラン
ユウを守ろうと盾になる母
そして、目の前に広がる真っ赤な血
ユウの手が母のそれで同じように赤く染まる。
冷たくなった母を、返り血を浴びたロランが見降ろして言うのだ。
『俺は死神オーディン。不要なものは切り捨てる。お前もせいぜいコレみたいにならないように気を付けるんだな』
ロランは妻を『これ』と呼び、ユウの目の前で無残に殺した。
氷のようになった母にすがって涙を流す我が子。
ユウがまだ三つの時の話である。
その日以来、ユウは魔法を使えなくなった。
母が魔法によって殺された。
魔法は人を傷つける。
父と同じ力を持ったことが恐ろしくてたまらない。
だからユウは魔法を体内に押し込め、何重もの殻で覆った。
当然、ロランはそんな息子を許さなかった。
オーディンのボスである自分の血を引きながら魔法を使おうとしないのだから。
魔法を使えと強要し母と同じ目にあいたいかと脅しては、半死状態になるまで暴行を加えることも。
ロランはそれを十年近く続けた。
逃げることすら許されない。
しかし、ユウの身体の不調が酷くになり普通の生活すら困難になり始めると、ロランがユウに構う時間は減っていき、とうとうフェルダン王国に飛ばされることになった。
捨てられたと思った。
それで良かった、ほっとしたのだ。
これでロランを、母を殺した男の顔をこれ以上見なくて済む。
例えこのまま、身体がもたずに命を落としたとしてもいい。
大好きな母の元に行ける。
そう思ってフェルダンに来た。
ユウは目を疑った。
柔らかな春風に、町中を染める淡い桃色の花。
ただただ美しかった。
天国に最も近い場所じゃないかと思ったくらい。
生まれてこの方味わったことのない温かな気持ちが胸の中に溢れだし、荒んだ心を洗い流してくれるようだった。
母に見せてあげたかったと何度思ったことか。
この国はとても平和で、人々も皆優しい。
極め付けがルミアとの出会いだった。
ここフェルダンが天国とすれば、さしずめ彼女は天使か何かか。
そう思うほど彼女は優しく、真っ白で、美しい。
まさに穢れを知らない純白。父と真逆の存在。
そんな彼女との出会いがユウの心をどれだけ救ってくれたか。
初めて生きててよかったと思えた。
フェルダンと言う国とルミアがそう思わせたのだ。
それなのに、
今、目の前に居るのは、ユウからすべてを奪った男。
母を殺し、ユウの人生を地獄に変えた死神だ。
奴が今、フェルダンに居る。
生徒や教師を痛めつけ血を流させて、また何かを壊そうとしている。
その事実が、追い打ちをかける様にユウを一層深い恐怖の底へ陥れていた。



