力なく倒れるロッシュと、手で触れただけで倒したネロ。


あまりに呆気なく、けれど、あの巨大な力が一切通用しないという、圧倒的な実力差をその光景は示していた。



「…ネロが舞闘会で自分が非難されることを覚悟した上で棄権を続けたのは、強い思いを持つ有志ある若い騎士や騎士であることが己の生きる理由だと思っている実力派の騎士たちが集う場所で、その未来を断つことを恐れたからだ」


敵ならば良い


だが、ここに集う騎士たちは、そうじゃない。


ここで負けて、もう二度と騎士として戦えなくなる、そうあってはいけない者達ばかりだ。


「あいつは弱い。ジンノのように、心を殺して己の力を奮うことも出来なければ、オーリングのように器用に力を加減してやることも出来ない。戦場に立てば全力で、騎士道を全うする。
ならば、あいつが取れる選択は一つしかないだろ。自分がどう言われようが、戦わない。その一つだけしか」



手ぬるく甘い、その上不器用な相棒。


アポロはどこか所在なさげな弱々しい彼の背を見つめ、困ったように笑う。



「弱いよ、ホントに…もっとずるく生きればいいのに、それすら下手くそなんだから、馬鹿め」










最弱の騎士

ネロ・ファーナー



『常闇の魔力』を持つ男。



至高の芸術と謳われるその力は、一億の闇の魔法使いの中に一人現れるかどうか。


未だその力の出自や詳しい事は一切明らかになっていない。


だが、一つだけ『常闇の魔力』に関するある仮説が存在する。




闇の魔法使いと光の魔法使い


本来は交わる事の不可能な二つの魔力の元に、奇跡的に生まれ落ちた子供は


光の『調和』と闇の『吸収』がぶつかり、反発しあって、互いの力を打ち消す能力を秘めた力を得ると言う。


『拒絶』と『破壊』


その力を。


母譲りの優しさと、父譲りの不器用さを持つが故に、

人々に『最弱』と呼ばれ

拳を交えた騎士に『破壊卿』と恐れられる。



だが、それが彼なのだ。


人一倍優しく、人一倍臆病で不器用な『最弱の騎士』


彼はこれからもその名を背負って生きていく。







ネロ・ファーナー

天才ではないが、力に恵まれ、一つの奇跡的な愛の元に生まれた

Nelo(ネロ)──《真(まこと)の黒》を名に持つ男。







fin.side by Nelo