櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ






「ユウ立て!! この程度でへばるな!!」


「ッ…!!はあっはあッ…!」



 特殊部隊騎士の中でもイーリスの指導は厳しい。


 普段は温厚で頼れるお兄さんだが、いざ戦術指導となるとその顔から笑みを消し、容赦なく扱き倒す。


 言葉通り、相手が立ち上がれなくなるまで。



「ユウ、もう無理か。その程度か、お前の覚悟は」


「…!! いいえっ!まだ…!まだ、やれます!!」



 ふらつく身体に鞭を打ち、ユウは立ち上がる。


 息は荒く、身体は傷だらけ、酷使し続けた筋肉はがくがくと震えていう事を聞かない。


 それでも立ち上がらなければならないのだ。




 訓練を始める前、イーリスは言っていた。


『もし、本気で特殊部隊に入りたいと思うなら、強くなろうとするな。覚悟を持て。誰かの為に死ぬ覚悟を、死ぬその時まで立ち上がり続ける覚悟を』


 戦場に立てば、さまざまな強さの敵がいる。


 その中にはおそらく、一生かかっても勝てない敵だっているかもしれない。


 数千の軍勢と一人で戦うことだってあるかもしれない


 そんな時、ただ力の強さを求めた者は呆気なく負けてしまう。



 だが、特殊部隊の騎士は負けてはならないのだ。


 戦いの最前線に立つからこそ、後に控える大勢の人間の命を守る必要がある。


 たとえそれが同じ軍人だったとしても、彼らには家族があり大切な者がいる。死んでいい人間などいない。皆が守るべき対象なのだ


 だから圧倒的な力の差を前にしても膝をついてはならない。


 死んでも倒れない。


 その覚悟がこの国の、騎士たちの強さの源なのである。





 数時間に及ぶ訓練が終わり、ユウは闘技場のど真ん中で大の字になって横たわる。


 身動き一つできないでいると、頭上からタオルと飲み物が降ってきた。


 イーリスが持ってきてくれたらしい。


 訓練が終わるとやはり優しい人だ。



「お疲れ」


「……すいません。ありがとうございます…」


「頑張ってるねユウ。ルミアの見込み通りだ」


「…そうでしょうか…俺はまだまだ弱くて、イーリスさんにも、ラウルさんにも、全然手が届かない。勝つつもりでかかって来いといつも言われるけど、勝てる気なんて全くしないです。むしろ拳を交えるたびに溝が深くなって距離がどんどん離れていくみたいだ…」


「その割には諦めないよな、良い根性してるよ」




 落ち込むユウの隣でイーリスは笑いながら、「少し昔話をしようか」と言って静かに話し始めた。