櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ







 その日の朝、ルミアが目を覚ますと隣にいるはずのイーリスの姿はなかった





 イーリスはルミアが国に帰ることを本人から聞き、知っていた


 知ったうえで、自ら姿を消すことに決めていたのだ





 ルミアの事が大好きで、


 本当はずっとずっとそばに居たいと思った



 けれど彼女には家族と言うものがあって


 イーリス以外に大切なものがたくさんあって。



 イーリスはこれでお別れなんだと思った。


 それでもよかった


 ただ、面と向かって言われることが恐かったのだ


 『さようなら』と


 ルミアから教わった、別れを意味するその言葉を言われることが




 だからイーリスは逃げた。


 まだ日が昇る前、薄暗い闇の中、イーリスはそっとルミアの隣から抜け出した


 日中の訓練がたたり、熟睡のルミアをじっと見つめる。


 自分を救い、暖かな愛情を注いでくれた彼女


 もう会えないんだとそう思えば思うほど胸が苦しくて、イーリスの頬を涙が伝う


 ぽたりと落ちたその雫はルミアの白い肌を濡らした



 その雫を、そっとすくい取るようにイーリスはルミアの頬にキスを落とす



 そして彼は、窓から部屋を抜け出した。



 元の住処である深い深い森の中に戻る途中、アイリスの花が目に入った。
 

 自分と同じ名を持つ花を一輪手折り、ギュッと握りしめて、イーリスは走り出す。




 陽が昇り、ルミアが気づいたとき、イーリスの人の足跡が森に向かって伸びていた