さくら

話してるうちにそれぞれの分かれ道に来た。

「真子どの方向?」
「こっちー」

新海が俺の家の方向を指さした。

「じゃあ拓海と一緒だね!拓海ーちゃんと送ってあげてよーじゃあねー」
「じゃあなー」
「また明日なー」

みなみと暁丈はそのまま同じ方向へ、優生は1人で帰っていった。

「じゃあ俺らも行くか」
「うん」
「家どの辺なの?」
「ここから結構近いよー。家のすくそばに公園、って言えるのかわかんないけどブランコだけあるちっちゃい空き地があるの」
「まじ?おれそこの隣だわ」
「えっ。じゃあかなり近いねー」

…沈黙。
でもなんでだろう。不思議と気まずい感じがしない。
何も喋らなくても安心できるような…。

「…北川くん、だよね?」
「お、おう」
「私北川くん見たことある」
「は?」

何言ってんだ?見たことあるって?
今日が初対面じゃないのか?

「私一週間ぐらい前にこっち来たのね。そのときお父さんが並木丘指さしてあそこのさくらがきれいらしいぞーって言って、そのとき丘の上に同い年ぐらいの男の子がいたの見えたの」
「それが俺?」
「うん。遠かったけど覚えてる」
「一週間前か…」

一週間前といえば、4月1日…。

「あ、行った」
「でしょ!」
「やっぱ新海が見たの俺だわ。すごいなお前の記憶力」
「あはははっ」

新海がさっきとはまた違う笑顔を見せた気がした。
さっきより一段と可愛い…笑顔。

「なんでさくらも咲いてないのにあの丘の上なんか行ったの?」
「いや…ちょっと気分転換に。あそこ日当たりよくて昼間行くと気持ちいいんだよな」
「あーなんか自分だけの落ち着く場所ってあるよね」
「そうそう、そんな感じの」

ほんとは違う理由だけど、言うのはやめておいた。
わざわざ新海に言うようなことじゃないしな。

「あ、私の家ここ」
「おー新築」
「へへへ。北川くんの家は?」
「さっき言ったじゃん。公園の隣!」
「どっち側?」
「…なんでそんな聞くんだ?」
「いや…ピンポンダッシュでもしようかと思って」

俺は思わず吹き出した。

「はははやめろよ。ブランコがある側!」
「そっかー。じゃあまた明日ね!」
「おう」

俺は新海と別れて歩き出した。
新海の方を振り返ろうとしている自分に少し驚いた。
ただなんとなく、新海がまだこっちを見ている気がして。俺も新海の顔をもう一度見たくて。

びゅっと強い風が吹いた。
新しい季節が、始まる気がした。