さくら

「皆藤くん部活の話するとすごい楽しそう」
「え、そうか?」
「うん。なんでいつもはしないの?」
「あ…それはさ…」

途端に皆藤くんの顔から笑顔が消えた。

「拓海がサッカー部に入らなかった、いや、入れなかった理由知ってる?」
「あ…うん。今日保健室で会ったとき聞いた」
「あーそっか。まあ、そういうことだからさ、なんか話しにくくて…」
「あ、まあ、そりゃそうだよね」
「拓海はほんとにサッカー大好きでさ、はっきり言って中学のときは今のキャプテンぐらいうまかったし、今のキャプテン以上にいいキャプテンだったんだ。でもケガしてサッカーできなくなって、お母さんとの約束も果たせなくなってさ…」
「うん…」
「俺も最初は高校でサッカー部入るのやめるつもりだったんだ。もちろん拓海に悪いっていうのもあったし、拓海がいないんだったら入ってもつまんねーと思ってさ。でも拓海は、優生は絶対入れって聞かなくてさ、最後には入ってくれって頭下げられて、仕方なく入ったんだけど…」

皆藤くんの目に、またさっきの強い輝きが戻った。

「今では入って本当に良かったって思ってる。だから拓海にはほんとに感謝してる」
「そうだよね。拓海も皆藤くんなら絶対そう思うってわかってて言ったんじゃないかな」
「俺もそう思いたいんだけどさ、やっぱりあのとき拓海は俺が遠慮するのわかってて、自分の感情押し殺してああ言ったんじゃないかとも思うんだ。拓海はそういう奴だからさ」

皆藤くんの目には少し、涙が浮かんできていた。

「あいつ小6のときお母さん亡くなってから、ほんと死ぬんじゃないかってぐらいサッカーの練習頑張り始めてさ、その努力が実って部活でも10番とれたんだ。お母さんが亡くなってから、あいつが心から笑ってるのサッカーやってるときだけだったからな。だから俺、拓海とサッカーやりたかった…。拓海のあの笑顔、ずっとそばで見てたかった…、って俺、なんで涙ぐんでんだろうな!」

皆藤くんはそう言って笑ったけど、目からは大粒の涙がこぼれ落ちようとしていた。

「わかるよ、皆藤くんの気持ち…。でも今拓海は新しい心から楽しいと思えるものを見つけようとしてる。きっと拓海なら見つけられるはずだよ、だって皆藤くんや後藤くんやみなみと喋ってるときの拓海、すごい楽しそうだもん。だから皆藤くんも、拓海に悪いなんて思わずサッカー楽しみなよ。その方が拓海も喜ぶはずだし、部活の話も聞きたいと思うよ」

こんなこといきなり引っ越してきた奴が言って、生意気かな…。
でも思ったことはちゃんと言いたい。そしたら拓海もわかってくれたもん。

「私も部活の話もっと聞きたいし」
「…しても、いいのかな。拓海の前で部活の話」
「きっといいはずだよ!」
「俺、もう一回拓海とサッカーの話したかった」
「まだまだいっぱいできるよ!若いんだから!」
「若いって、はははは。そういえば新海、拓海のこと北川くんじゃなくて拓海って呼ぶようになったんだな」