さくら

温かいものに包まれた。
なんだ?この、すごい安心できる感じ。
誰の温もり?母さん?
あ、そうか。
新海か。

気がつくと新海が俺を抱きしめていた。

「弱くなんかない。北川くんは強い。私だったら、お母さんがなくなった時点でとっくに挫折してるよ…そこから頑張ろうなんて思えない…」

新海の声が震えている。
俺の話で、泣いてくれたのか…?

「頑張るなら、サッカーじゃなくたっていいじゃん。自分が本当に楽しいと思えるものを、全力で頑張ればいい。今すぐ見つからなくたって、お母さんはいつまでも北川くんのこと見てるよ、きっと」

サッカーじゃなくたっていい。
母さんとの約束は、サッカー選手になることじゃなかったのかもしれない。
本当に楽しいと思えるものを、全力で頑張る、母さんはそんな俺を見たかったのか。

「話してくれて嬉しかった…。また不安になったり、今言ったもの、なかなか見つからなかったりしたら私に相談して。私、北川くんの力になりたい」

北川くん…北川…じゃなくて…。

「拓海」
「え?どしたの?自分の名前言っ…」

新海をきつく抱きしめた。

「拓海って呼んで」
「え、いいの?」
「あ…えっと…うん、そのほうが慣れてる」

急に恥ずかしくなり、腕の力を緩めた。
顔が熱くなるのがわかる。
俺いきなり何言ってんだ…。

「じゃあ私も真子って呼んで」
「え?」
「北川くん、じゃなかった、拓海にはそう呼んで欲しい」
「あ…わかった。真子、な…」
「あ、あの、私からやったのに悪いんだけど、これいつまで…」
「ああっ、そうだなっ」

俺らはようやく体を離した。
ほんの数秒前の出来事がまるで夢だったように感じる。