さくら

『北川くんがつらいと思ったこと、私が一緒に背負うよ』

背負ってくれるのか?
新海、なんでおまえはそんなに人の心の中に入り込むのがうまいんだ。
俺もう、話すしかなくなったじゃねえか。話したくなっちまったじゃねえか。
ずっと誰かに、聞いて欲しかった。
笑ってるのはもうつらかった。
一緒につらいって言ってほしかった。

「俺はもう、サッカーできねえんだ」

頭の中を整理する。
俺がずっと苦しかったこと…。

「俺ちっちゃい頃からサッカーやっててさ、中学のときはサッカー部のキャプテンで背番号も10番で、自分で言うのはあれだけどすごいサッカーうまかった。それに、サッカーやってると楽しかった」
「うん」
「でも中3の最後の試合で大ケガして、医者からサッカーやるなって言われた。授業でやるような軽いのはいいけど、部活でやる激しいのは駄目だって。だから高校ではもうサッカー部入るなって」

すごくつらかった。あんなに楽しいサッカーがもうできなくなるなんて。
でもそれ以上につらかったのは。

「まだ自分の楽しみなくなるだけならよかったんだ。でも、俺の母さん俺が小6の時病気で亡くなっててさ、母さんは俺が小さい頃からずっと拓海はサッカー選手になれるね、拓海がなったら母さん絶対試合観に行くからねって言ってて…」

だめだこれ。
自然と涙が溢れてくる。

「病気で入院してからも、実際に観に行けなくてもテレビで観るからねってずっと言ってて、俺が小学校のとき入ってたクラブチームの話してもすごい嬉しそうにしてたんだ。だから母さんと約束した。絶対サッカー選手になって母さんに試合観せるって。でも約束果たせないまま母さんは死んじまった」

新海はうつむいていて何を考えているかわからない。

「でも天国から見てくれてるって信じて、母さんとの約束果たすために頑張ってきたのに、あんなケガで…果たせなくなるなんてな…ほんと情けない。自分が嫌になる…。すげえ弱いやつだよな…」

その瞬間。