「はい、宜しくお願いします?」 優しい調律師のままでいい。 その意味が分からないのに、颯真さんは笑顔でガードして深く追求させない。 これも『ワケあって』? 優しいだけではない何かを感じたけれど――それ以上に私の胸はドキドキしている。 ホテルへ向かう背中が振り向いて私に控え目に手を振る。 わざわざ振り向いて、手を――。 あんな王子様みたいな人に手を振られて舞いあがった私は、何故彼がホテルへ帰って行くのかを深く考えていなかった。