この恋は、風邪みたいなものでして。


緊張しながらチャペルへ向かう道。

控え室からチャペルへ向かう廊下は、外側が全て窓ガラスになっていて、射し込む光の中を進んでいくのは今の気持ちを表している様な、素敵な演出だった。

この先、こんな幸せな道ばかりではないかもしれないけど私はきっと怖くない。


「此処で待っていて下さいね」

チャペルの門の前で、緊張して何度もネクタイを触る父の横で、パイプオルガンの賛美歌が聴こえてくる。

それが、颯真さんが弾いているのだと分かったのは彼の奏でる音が甘かったからだ。

幸せすぎて涙が零れる。

皆が居なかったら、きっと走り出して抱きついていたかもしれない。


素敵なサプライズの後、ゆっくりとチャペル扉が開いた。

そこには、花弁の絨毯のバージンロードの向こうに真っ白なスーツの颯真さんが立っているのが分かった。

すぐ横の椅子には風君もいた。

既に涙で颯真さんの顔はぼやけて見えなかったけれど、一歩一歩歩いて行く。

花弁の絨毯の上を、マリアベールがさらさら花弁をさらいながら流れていき、皆の拍手と笑顔、フラッシュの中、涙が止まらなかった。


風邪をひいたふりをして休んだ1週間。

それがなければ、彼は心配して様子を見に来なかったかもしれない。

全て恋愛にはタイミングがあって、私たちは全て上手に絡み合った。

私一人がぐるぐると空回りしただけだったけれど、最後にはいつも許してくれたし受け止めてくれたね。


漸く、花弁を攫いながら彼の前に辿りつくと、彼は私のベールを上げて涙を指先で拭ってくれる。


その笑顔はいつもの蕩ける様な優しい笑顔で、私の心は、また風邪を引いた様にドキドキと高鳴った。


Fin