「彼女じゃない、本当に」
「顔真っ赤ですけど。あなた、そんなウブじゃないでしょう。それじゃあ、好きなんですか?」
「ぐいぐいくるな、蒼井……」
「だって、会長。その、悩みだと気づかないうちにどんどんと溜めこむ癖、よくないと思います。話したいんだったら、きちんと話してください」
気づけば、窓の外はずいぶんと薄暗くなっていた。橙色から濃紺へと徐々に変わっていく。その合間には、きらきらと輝く星。夏と一緒に見た、あの日の空が自然と浮かんだ。
「これが、好きっていう、ものなのかな」
「え?」
「……誰かのことを、そういう風に思ったことがなかったから、自信なくて」
蒼井が、驚きのあまり手に持っていたクッキーを落として、慌てて拾い上げてぱたぱた埃を払うのが見えた。
これが、恋っていうものなのか。柄にもなく、そんなことを思ってしまう。蒼井と話したことで、なんとなく不明確だったその感情が明瞭になった気がした。出会った頃は、早く消えてくれだとか、夏がどこで何をしていたって気になんてならなかったはずなのに。
今じゃ、姿が見えなければ気にしてしまう自分がいる。どこで、何をしているのか。消えないで、もう一度ちゃんと会えるのか。苦しいほど、考えてしまうのだ。

