「……最近、思うことがあって」
ゆっくりと息を吐いた。多分、それは後悔だ。何もかもが退屈で意味のないものに思えて、無関心だった。そうやって、自分はいくつもの大切なものを、見落としてきたんじゃないだろうか。
「そのことに、今気づいたんだからいいじゃないですか」
「え?」
「もしかしたら、何にも気づかないうちに一生を終える可能性だってあったわけですよ。今気が付けたんだからよかったんです」
「蒼井は、意外に前向きだ」
銀也の言葉に蒼井は楽しそうに笑って、空になったカップに紅茶を注ぐ。買い置きしていた来客用のクッキーをこっそりと開けてふたりでつまむ。
本当に、他愛もない話なのに、とても楽しい。蒼井は、読書が趣味らしい。雑食だから、純文学もライトノベルも歴史小説も、とにかく活字が読みたくて仕方ないらしい。その感覚を、普段は漫画くらいしか読まない銀也にとっては理解出来なかったけれど、だからこそ面白いなとも思った。
「だから、俺……、将来は絶対に出版社に入って編集者になりたいんですよね」
「編集者って、本をつくる、あの?」
「はい。誰より一番に小説を読めて、それを世の中に送り出す手助けが出来るなんて、本当に夢みたいです」

