愛の歌、あるいは僕だけの星


(除霊は失敗……)

 愛想でもつかしてさっさと出て行ってくれたら助かるのに。戸の閉まった押し入れをじっと見つめる。あの中に幽霊がいるのか。そう考えれば未だに背筋がゾっとする。

 電話のおかげで、すっかり目も覚めてしまった。
 台所でコーヒーを淹れて、ベッドに腰掛けながら口をつけた。湯が少なかったのか、インスタント独特の苦みに自然と眉間に皺が寄る。

 最低だと、如月はきっぱりと銀也の目を見て言い放った。何が?そんなことを、なんでいきなり現れた彼女(しかも幽霊!)に言われなければならないんだ。

(死んでから、説教垂れようなんてうざい女だ)

 けれど、いつものように聞き流そうと思わなかったのは、銀也自身も不思議だった。なぜだろう、考えてひとつの事実に気がつく。もしかしたら、初めてだったのかもしれない。

 今みたいに、打算も期待もなく、真っ向から本音をぶつけられたのは。それが少しだけ、新鮮だったのだ。もう人ではないけれど、如月夏という人物に、ほんの少しだけ興味が沸いた。

 それは、新しい玩具を見つけた時の子供のような気分。
 ちょっと怖いけれど、何せ相手は滅多にお目にかかれない幽霊だ。もしかして、最高の暇つぶしになるんじゃないか。

 銀也は、そのとき素直にそんなことを思っていた。