その日、銀也は酷く不機嫌だった。

「ど、どうしたの?今日の銀也君、なんか機嫌悪くない?」

「ちょっと聞いてみなよ」

「やだよ、嫌われたくないし!」

 教室のあちらこちらで、ひそひそと囁かれているのを一切無視して、ムスっとしたまま窓の外を睨んでいる。亜矢子は、そんな銀也の横顔をそっと見つめて、睫毛長いなあと呑気な感想を持った。

「銀也君」

 そう呼ばれれば、いつもなら上っ面の微笑みだけを浮かべて、とりあえずの愛想くらいは振りまくのに、今日はそれすらもしない。ひたすらに無視の一点張りだ。

「おーい、藤原、おまえ今日は生徒会だからな。帰るなよー」

 担任のゴッツから声を掛けられた時も、「……はぁ」と何とも憂鬱そうな低い声を発しただけだ。

「なな、なんだ、藤原!?機嫌悪いのか?」

 担任の心配もよそに、ぷいっとそっぽを向いてしまいそれ以上何の返答もしなかった。ここまで不機嫌な銀也を見るのは初めてなようで、クラスの誰もが対処方も分からないようだ。これ以上機嫌を損ねないように、遠くから見守ることにしたらしい。