『……あれ、この花瓶ってあたしのだよね?』

 ガーベラが一輪活けてある藍色の花瓶。銀也は、さりげない風を装ってひょいと手に取り、元々にあった位置に戻した。

「ああ、そうだけど。今、水を換えたから」

 なんて、誤魔化すように口早に言った。まさか、ちょっとした妄想をしていただなんて、恥ずかしくて言えるはずがない。

『かわいいガーベラだね』

「一番かたちが花っぽくていいだろ?」

『あはは、花っぽいって。ていうか、銀也が選んでくれたんだ。嬉しいなあ、ありがとう」

「……そろそろ、帰るか」

『ふふふ。うん、帰ろう』

 そう、それは他愛もないやりとりだ。それなのに、妙に気恥ずかしくて、むずがゆいような不思議な感覚。夏は、どうだろうか。ちらりと彼女を見るも、いつもと同じ横顔だ。何だか面白くなくて、銀也は小さく息をついた。