「ご、ごめんなさい」
「え?」
「じつは私、ああいう風に囲まれるのが凄く苦手で……。逃げる口実、藤原君に手伝ってもらっちゃった」
申し訳なさそうに、けれど銀也の様子をそっと伺うように視線を揺らす。緊張しているのか、彼女の両手はスカートの裾をぎゅっと握りしめていた。
「別に何も。ていうか、俺も、正直すこし助かったし」
「ふふ、ありがとう、藤原君。藤原君って、すごく優しいのね。転校は初めてだから、凄く不安だったけど、ちょっとほっとしたよ」
雲がはれるように、ぱっと明るい笑顔を浮かべる彼女に、思わず首を横に振る。
「これから、よろしくね」
そう言って、小さくお辞儀をした彼女は、「少ししたら戻る」と言って、職員室とは違う方向へ歩いていってしまった。そんな彼女の後ろ姿を黙って見送っていた如月が、隣でうーんと唸る。
『……なんだかなあ』
「如月?どうかした」
『や、ごめん、なんでもない。ていうか、次の授業、確か音楽だから移動じゃなかった?早めに戻らないと。三原さん大丈夫かな』
「あの子なら大丈夫だろ。なんとなくだけど」
そう呟いたところで、予鈴の鐘がなる。くるりと踵を返し、来た道を戻る。がらんとした教室を悠々と歩き、鞄の中からペットボトルと弁当箱を取り出した。

