朝、七時。
 鮭の塩焼き、菜の花のお浸し、絹豆腐とわかめの澄まし汁。炊き立ての白米はよそられた碗の中でつやつやと光っている。

「……おおっ、豪華!」

『朝は、しっかり食べないと。一日の活力になるんだからね』

 不健康極まりない生活を送る銀也に、自分が料理を伝授すると宣言した通り、彼女はことあるごとに銀也の食生活に口を出すようになっていた。一分一秒でも長く眠っていたかったのに、今じゃ彼女に叩き起こされるまま朝っぱらから鮭を焼いている。

(……なぜこんなことに)

 傍に置かれていたインスタントカメラでぱしゃりと一枚写真に納め、箸をとって菜の花のお浸しをぱくりと食べる。

「めちゃくちゃ美味しい」

『ふふふ、そうでしょう。旬の食材は、きちんと押さえる』

 もくもくと口を動かしている銀也を、満足気に見つめる如月。
 そう、とにかく美味しい。彼女があれやこれやと口を出すのに、面倒だ煩わしいと思いつつ文句が言えない一番の原因はそこだ。要は、幽霊である彼女に完全に胃袋を掴まれてしまっていた。