なんなのよ、自分から言ってきたくせに…
そこからは2人とも、特に何を喋るでもなく学校へとたどり着いた。
校門をくぐった瞬間 強風が吹いて、桜の花びらが舞い散った。
私達の通う高校は、校門をくぐって すぐそばに、
大きな桜の木が2本そびえ立っているのだ。
彼はヒラヒラと舞い落ちていく桜を、
懐かしむような、それでいて寂しそうな、そんな目で見つめていた。
…そんな切ない顔をするから、声をかけずにはいられなかった。
「…桜」
「……え?」
彼は驚いたように振り返る。
そして、私をジッと見つめてくる。
「桜……思い出が、あるんですか?」
尋ねると、彼は寂しそうな笑顔をつくった。
そして、ゆっくりと目を閉じる。
彼が再び目を開けたときには、うっすらと涙を浮かべていて。
「とても、とても大事な人との…思い出の場所。」
そうなんだ…
「…その、大事な人って?」
こんなイケメンの想い人か…
誰だろう?
途端、彼はうつむいてしまった。
何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったんだろうか。
「あ、あのー」
「…遠くにいる。」
「え?」
言いたくないことなら 言わなくていい。
そう言おうとした私の言葉はさえぎられた。
彼は顔をあげて、悲しそうな目でまっすぐに私を見つめてくる。
「すごく…遠くにいる。俺の…手の届かない場所。」
あまりにも悲しそうなその瞳。
「いつか、また……想い合えるときが、来たらいいですね。」
「…そうだな。」
彼は空を仰ぐと、深呼吸をした。
そして、私のほうを見ると、そこにはいつも通りの彼の笑顔。
「そろそろ行かねぇと、チャイム鳴るじゃん。早く行こうぜ。」

