貴方と月と、少しの勇気と。



原君がいなくなると、一気に屋上が静かになった。多分、彼がずっとしゃべり続けていたからだろう。

その空気を紛らすためか、吉田さんが「あー」と声を出した。


「わりぃな、うるさくて」

私は首を振った。


「彼は天体が好きなんですね」


吉田さんが苦笑を浮かべる。


「ま、健太は下心と半々って感じだな」

「下心?」

「まあ詳しい事は今度。実はさ、俺も星空同好会なんだよ」

「サッカー部じゃないんですか?」

「兼部してる」


そうだったんだ。

……そういえば、私吉田さんの事何も知らないな。クラスとか、仲のいい人とか、誕生日とか。

もっと知りたい、って思うのは変な事なのかな。


その時、チャイムが鳴って、吉田さんが立ち上がった。


「ぶっちゃけ俺も入ってくれて嬉しい」


吉田さんが手を差し伸べてくれる。
私は恐る恐るその手を握ると、グイッと引き上げてくれた。

わ……また手触っちゃった。

上を見ると、吉田さんの綺麗な顔が青空を背景に映った。


「ありがとな、日向」


……え?

今、なんて……


その瞬間、一気に顔が熱くなった。
そして胸を押さえ込む。


「え、どうした!?」

「大丈夫ですただの動悸です」

「は!?」


吉田さんがあわてふためきながら背中をさすってくれる。


――なんなんだろう、このドキドキは。

吉田さんといるだけで、すごく苦しい。


私、本当に変なのかもしれない。