貴方と月と、少しの勇気と。



「あ、俺日向ちゃん知ってるよ。隣のクラスにすんげー地味な子がいるって有名だから」

「ああ、そうなんですか」

「失礼すぎだよバカ。お前も素直に頷くな!」


"日向ちゃん"、か……

男の人に名前で呼ばれるなんて初めてかもしれない。あ、深谷君は昔は名前で呼んでたっけ。


吉田さんが私の手元に視線を移した。


「あ、それ作ってきてくれたやつか?」

「はい。どうぞ」


緊張しながら箱を差し出す。


「ありがとな!」


その時、ほんの僅かに手が触れた。

ドキン、と心臓が大きく脈打った。


……あれ、なんでこんなにドキドキしてるんだろう……


吉田さんはというと、全く気にしてない様子でお弁当を開けながら
「おお〜」
と言いながら笑みを浮かべていた。

どうしよう、私本当に運動不足で動悸が激しくなってるみたい。


「あれ?誠さんあのクソ甘そうなパンやめたんですか?弁当なんか貰っちゃって」


私が自分の胸を抑えていると、原君が肘で吉田さんをつついた。ずいぶんと仲の良さそうな様子だ。


「オレが頼んだ。あと別にクソって程甘くねぇし」

「いや、シュガーパンだっけ?この前貰って食った時もはや砂糖の味しかしませんでしたよ。どんだけ砂糖入ってんですかあれ」

「そんなに入ってるかなー」

「いや包装紙に書かれてるキャッチフレーズ、『これさえ食べれば君も糖尿病☆』って書いてありましたよ!何を売りにしてんのあのパン」


吉田さんと原君がしゃべり出す。
因みに私はようやく収まってきた動悸にほっとしていた。