でもそんなわけがない。吉田さんは食べた瞬間、少し固まっていた。
それでも私が落ち込まないように、私の卵焼きまで食べてくれたんだと思う。


「本当は、凄く甘くしようと思ったんです」

『うん』

「でも、砂糖と塩を間違えたみたいで……」

『うん』

「本当に、嫌がらせではないんです」


ぶはっ、と噴き出す音が聞こえた。


『お前見りゃ分かるって。俺が食べてる間すげー不安そうな顔してたぞ』


……確かに、息をしてないくらいに緊張してた。

それが吉田さんに気づかれてたなんて、と体育座りになって膝を抱え込んだ。


一拍おいて、吉田さんがまた喋りだす。


『わざわざ電話してくれてありがとな』

「いえ……」

『元気だせって。俺は弁当作ってもらえること自体、すげー嬉しかったぜ』


はい、と言いたかったけど、それはかすれて声にならなかった。


膝に額をつける。


吉田さんは、魔法使いみたいだ。

たった一言で、私を幸せな気持ちでいっぱいにしてくれる。


――なんて言えばいいのかな、この気持ち。



「あの、明日も作っていいですか?」

『え?いいのか?じゃあ頼もうかな』

「明日はちゃんとお砂糖使いますね」

『あはは!明日は甘いの期待しとく!』


……苦しい。

吉田さんと話すのが、吉田さんの声を聞くのが、凄く苦しい。

なのに、まだ話してたい。


私は、どこかが悪くなってしまったんだろうか。


――私がこの気持ちの正体に気づくのは、まだ先の話だ。