そして、括りつけていたお箸を持って
「いただきます」
と、卵焼きを食べようとした。
「ま、待ってください。こんな物食べて欲しくないです」
「でも俺のために作ったんだろ?食わせろよ」
そう言って、彼は卵焼きを口に入れた。
吉田さんがお箸を使う姿って貴重だな……と思いながら、その後の反応を待つ。
まずかったらどうしよう、もしまずいなんて言われたら一生立ち直れない。
吉田さんは少しの間モクモクと噛むと、私の方をチラッと見た。
「美味いよ」
綻ぶような笑顔。緊張が解ける。
「良かった……」
私は大きく息を吐くと、それまでまともに息をしていなかったことに気づいた。
どれだけ緊張しているんだろう、となかば呆れながら、私も自分の卵焼きをつまもうとした。
「ああーー、待った!卵焼きめっちゃ美味いから頂戴」
「え?」
「いただきます!!」
吉田さんが、私のお弁当箱から目にも止まらぬ速さで卵焼きを抜き取り、食べた。
「はは、悪い、あまりに美味いから」
呆然としながらそれを見ていた私に、吉田さんはぎこちなく笑った。その不自然な笑みに違和感を覚える。
……どうしたんだろう。
まあ、美味しいって思ってくれてるならいいか。
私は前向きに考えて、深い意味は考えない事にした。
