貴方と月と、少しの勇気と。




……相変わらず足おっそいな、あいつ。
俺よりだいぶ前に走ってったけど、すぐに前方に見つけた。


そしてその進む方向に俺は首をかしげる。


……芸術棟?


勢い余って歩いてきたにしても、随分変な所に来たな。


不審に思いながら、俺は尾行する。

……って、なんかストーカーみたいじゃん。言い方変えよ。追跡だ、追跡。うん、まあまあかっけー。


そんな事を考えていると、ターゲット(勿論あいつの事だ)は階段を上に上に上がっていく。


何やってんだアイツ、屋上なんて閉まってるだけだろ?


ここで驚かせてやろうかとニヤニヤしていると、キィ……と扉の開く音が聞こえた。


え、まじで?


びっくりして上に行くと、丁度扉が閉まるところだった。

屋上開放してんの?でも、校則では屋上は立ち入り禁止だったし。


俺は扉を、気付かれないようにそうっと開けた。


これで待ち伏せされてたとかないよな……と少しドキドキしたけど、それはなかった。


けど、俺は目の前の光景に驚いた。


あいつともう1人、誰か、男がいる。

よく目を凝らすと、誰なのかが分かった。



……吉田誠?


外で幼なじみと部活の先輩が一緒に座っている。

なんで吉田誠があいつと……しかも結構仲良さそうじゃん。


もしかして、二人で弁当食ってたのか?だとしたらあいつは俺に嘘をついたことになる。

しかもあの女、吉田誠と喋りながら笑ってやがるし
俺なんてここ数年、あいつの笑った顔見てないのに。

……もしかしてあいつ、吉田誠が……?


そう思った瞬間、自分の中に黒い感情が芽生えた。


――お前を幸せになんて、してやらねーよ。


俺はニヤリと笑うと、屋上を後にした。