貴方と月と、少しの勇気と。



「な、何あいつ、キッモ」


隣の女がつく悪態を聞きながら、俺は走り去る幼なじみの背中を見つめていた。


耳の奥で、あいつの声が蘇る。


『やめてください』

『なんでそんな事するの……?』


あいつのあんな感情のこもった声、初めて聞いたかも。しかも泣きそうだったし。
俺がいくらいじめても悪口を言っても、つまんねーくらい無反応だった癖に。

……バカみてー。弁当ごときで何ムキになってんだか。


でも、マジでなんで二個あったんだ?

あいつが二個食うのはありえねー。昔から食細せーし。

あとアイツが走ってった方向、トイレあったっけ。


「あっ、翔君!」

「わり、先生に呼ばれてたの忘れてた」


俺は迷わず廊下に出た。

なんか気になる。

あの芋くせー女が俺に何を隠してんのか、探ってやる。