貴方と月と、少しの勇気と。



そして、お昼休み。

私はいつも通りお弁当を胸に抱えて教室を出ようとした。

いつもこの時間になると胸が弾む。けど、今日は一段とわくわくしていた。


「おい」


後ろからかかるその低い声を聞くまでは。

躊躇いながらも後ろを振り向くと、いきなり深谷君の顔がドアップで映った。


「お前いつもコソコソとどこいってるわけ?」


深谷君が腰を屈めて私の顔をのぞき込む。
その表情は彼がよくする意地悪なそれだ。


「まさかトイレでくってんの?ウケる」

「そうです」

「はははっ!マジかよお前、とことん根暗野郎だな!」


目の前で爆笑する深谷君。

私は初めて暗い性格でよかったと思った。
私と一緒にお弁当食べてるなんて知られたら、吉田さんに迷惑だ。


「なあ、俺と一緒に弁当食うか?」


誤解してくれてホッとしていると、彼が片手で私の頬を鷲掴みにする。

深谷くんにしては、珍しい冗談だな。

不思議に思っていると、ふと深谷君の視線が私の持っているお弁当箱に移った。


「……あ?なんで2個もあんの?」


すると、クスクスと後ろの女の子達が笑い出した。


「やめときなよー?地味でブスな上にデブとか、まじ笑えないから!」

「ダイエット手伝ってあげるよ!」


1人の女の子がお弁当箱の包みを力いっぱい引っ張って、私から奪った。女の子は包みをブラブラと揺らす。


「これ、校庭で飼ってるニワトリのエサにしようよ」