貴方と月と、少しの勇気と。



――――――――――


翌日の早朝。
少し冷え込む台所で、私はカチャカチャと生卵を混ぜていた。


その傍らにはお弁当箱が二つ。――勿論、一つは吉田さんの物だ。


これ以外に何か出来る事は思いつかないし、恩返しとしても十分だろう。……私の料理の腕で満足してくれるかは分からないけど。


それに吉田さんは私にお弁当を作ってなんて頼んだわけじゃない。


おせっかいとは重々承知してる。要らないって言われるならそれでいい。


ただ、吉田さんへの感謝を伝えたくって、いてもたってもいられなくなるんだ。


吉田さんの笑顔を思い出すだけで心がじんわり温まる。
自分がこんな気持ちになるなんて思わなかった。


全部……全部吉田さんに出会ってからだ。
今までは何事にも怖がっていたのに、今は少しだけ積極的になれた気がする。

ただ、不安がないわけじゃなかった。

――仲良くなった分、裏切られたらどうしようという恐怖は比例するように大きくなる。


「喜んでくれるかな……」


卵を焼く前に、ふと思い出した。


……吉田さん、凄く甘党なんだよな。もう少しお砂糖入れよう。
私はお砂糖を卵の中にたっぷり入れると、焼き始めた。


――そして、出来上がった物をお父さんの古いお弁当箱に詰めれば……。


「できた……!」


いつもより丁寧に作ったから疲れた。
朝早くに起きたから、学校で寝ないといいけれど。


寝ちゃったらどうしよう、と思いながら二つのお弁当を包むと、私は家を後にした。