聞いた事のある声に顔を上げると、そこには見慣れた姿があった。 染めた茶色い髪に整った顔立ち。スラッとした長身――幼馴染の、深谷翔(ふかやかける)。 でも、深谷君は私を見るなり顔を歪めて舌打ちした。 「……てめぇかよ」 ああ、あからさまに嫌そうな声。 私は精一杯俯いた。幼馴染といっても家が隣で幼稚園から一緒というだけで、大した接点はない。 でも深谷君は私の事を嫌い。自分が私の幼馴染って事が恥じているみたい。 音楽の教材を胸に抱きながら、私は深谷君の横を抜けようとした。