9月。秋風が吹いてくるようになった季節。


眼鏡のズレを直しながら、私――相沢日向(あいざわひなた)は賑わう廊下を一人歩いていた。


次の授業は音楽。音楽室へ移動しなければならない。


音楽の教師は時間にとても厳しい人だ。
前に授業で遅れてしまった男子が、スクワットを五十回させられていた。彼が顔を真っ赤にして体を上下する光景を思い出す。

時間にはまだ余裕があるけど、その事を思い出すと自然と足早になる。


そして、角を曲がろうとした時だった。

ドン、と何かにぶつかって、体がよろめいた。
転ぶのをなんとか堪えて、誰かにぶつかったのだと認識する。


「ごめんなさい」
「あ、わり……」


……あ、この声。