第二秘書は恋に盲目

「兄貴と距離なんか縮められんの?あの人、めっちゃ壁作ってるから話しかけにくいって、大学時代も有名だったのに」

「壁か…。会うたびに怒られてばっかりだったから、いつの間にか無くなったのかも。
…すっごい怖いよね、孝宏さん」

「あぁ、怖い」

その怖さがあるから、誰も兄貴のことを孝宏なんて呼ばないんだ。
千歳はさらっと兄貴のことを孝宏さんって呼んでるけど、それはなかなか凄いことなんだよ。兄貴に気がある女が冗談で孝宏くんって呼んだとき、無視し続けてたから。
家族になったから下の名前で呼ばせてるんだとばかり思ってたけど、兄貴の中ではそれだけが理由じゃなさそうだ。

「で、兄貴の気持ちは千歳に傾いていったけど、千歳の気持ちはそうじゃなかったんだ?
好きな人とかいるならはっきり言ってやればいいし、お前には気がないとかもガツンと言えば良かったのに」

遂に俺は踏み込んだ。

兄貴は忘れてくれなんて言ってたけど、諦めの悪さが人一倍強いあの人があっさりと好きな人を忘れるはずが無いんだよ。だから、バッサリ斬ってやんないとどうにかアプローチかけてくるに決まってる。