第二秘書は恋に盲目

「ねー、千歳ちゃーん」

そう名前を呼んで肩に腕を回されそうになる。ゾワリと鳥肌が立って瞬間的に距離をとるも、そんなのたかが知れている。
千歳ちゃんなんて、できれば初対面の人には呼ばれたくないし、肩を組まれるなんて絶対やだ。

けどこれ以上空気を悪くするのは申し訳ないし…、どうしよう。自分でなんとかしなきゃいけないのに。

ペシッ。
うつむいて返事に困っていると、何かが視界の端を飛んで横切った。それは岡崎さんの顔面にヒットして、はらりと床に落ちた。

…おしぼり?

「痛って。何すんだよ、須藤!」

須藤?

「あぁ、すいません岡崎さん。
手が滑りました。

でも、日帝の社長秘書を気安くちゃん付けで呼んだり、ましてや触れたりなんてしたら、大変なことになりますよ。あの社長、所有物にかなりのこだわりを持ってますから。


嫌いなんです。そうやって軽く扱われるの」

ピシッとそこだけ空気が凍った。