部屋に嫌な空気が流れる。


「………ユリ、聞かなかったことに出来るか?」


必死そうに手を合わせているお父様を見ていたら………。


「………分かったわ。」


「………ありがとな。」


仕方ないように答えてしまったけど、お父様は本当にホッとしたようだった。


私は言いにくそうなことを無理やり言わせるなんてしないよ。


まだ気まずそうにしているお父様を救うように玲央は1つ咳払いをした。


「で、この猫はどこに住まわせているのですか?」


「ああ………この部屋だ。猫用のトイレは別のところにあって自分で行くように躾けた。この猫はどこか賢いところがあるんだ。」


以前私がこの部屋に来た時は、猫はこの部屋に住まわせていなかったけど、廊下から私たちの様子を覗いていたそう。


「………本当に生まれ変わっているのかもしれないな。」


お父様は膝の上のナナをそっと愛おしそうに撫でた。


「お祖母様の写真とかないんですか?見たことないの。」


「ああ。お袋のアルバムとか思い出の品は全部まとめてあると思うよ。」


お父様は私にナナを預けると部屋の引き出しを引っ張り始めた。


「確かここに………。あれ?ない………。」


「お父様、私も手伝うから。」


と、私も立とうとしたけど。


「ユリ、俺に猫を預けさせる気か?座ってろ。」


玲央に両肩を掴まれて必死に頼み込まれたので、おとなしく座っていることにした。