「…」
ミキナを殴ろうとした腕を下ろし、男はすごすごと下がる。
ミキナのいる部屋の扉を開けて入ってきたのは、また別の男二人だった。
「あ!」
その二人の顔を見て、ミキナは声をあげる。
トゥメニスでミキナとショウと言い争ったあの青みの勝った黒髪の30台の貴族と、ルイスが慌てて隠れた高級ホテルで見た背の高い貴族。
その二人だった。
「コイツがルイス様と一緒にいた女か、モナキス」
背の高い貴族が偉そうに黒髪の貴族に言う。
「はい、ボスレア殿。」
(何よ、自分。そんな高い地位でもないくせに威張ってたのね!)
ムカついたが、縛られたこの状況では何も言えない。
「…なかなかじゃないか。」
ボスレアと呼ばれた40そこそこの貴族の男は、嫌らしい目でミキナを見下ろす。
怖くなったミキナは視線を床に落とした。
ボスレアはなおもミキナを観察しながら、口を開いた。
「貴様、名は何と言う」
「…ミキナ」
相変わらず視線を落としたまま、ぼそりと答えた。
「いい名だ。何故ルイス様と一緒にいた?」
「友達だから。」
「友達、か。あの方は身分差別を嫌うからな。そういうこともあるのだろう。」
そう言ったボスレアはほくそ笑んだ。
見ていたモナキスと雇われた男がゾクッとするくらい恐ろしい笑み。
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