ドキッとした。


そうだ、彼は加藤さんに会ったことがあった。





「‥‥えぇ、そうよ。」




「‥‥‥‥行くんですか‥‥。」




加藤さんと会ったあとの彼の寂しそうな顔が思い浮かぶ。


凛とした切れ長の目がまるで捨てられた子犬のような目になる瞬間が頭をよぎる。






「‥‥‥‥上司だもの、行かなきゃ」



「俺が‥‥俺の方が‥‥」



感情が先に出て言葉が付いてこないようだった。

私は携帯をまた強く握りしめた。



「‥‥あのね‥‥」



「俺の方が凛子さん好きです。」











‥‥トクン‥‥











絞り出したように発した彼の言葉が胸に響く。



あぁ、なんどこの少年の言葉に悩まされただろうか。





7つも下の男の子の〝 好き〟という単語だけで‥‥。




あの時の私は想像も出来なかっただろう。










「‥‥‥‥わたし‥‥」










ハッと口を塞いだ。






私‥‥何を言おうとしたんだろう‥‥。














‥‥わかってる。




思わず発した言葉の次に出てくるはずだった文字‥‥



















〝も 〟






















「‥‥凛子さん?」



「‥‥え、あ、なんでもない、」





今さらになって彼の電話越しの声に赤面してしまう。







時計を見るともう日付が変わろうとしていた。







「そろそろ寝ましょ?夜更かししちゃダメよ」



「子ども扱いですか」



「フフ、電話、ありがとう。夜には間に合うようにするね。」



「ホントですか‥‥!」




「フフフ、おやすみ」






「おやすみなさい、凛子さん‥‥」








彼の最後の声で彼も今、私と同じ顔色をしていることがわかった。




いや、





私の方が赤いかも‥‥。