「………は…。」






彼から出た言葉は
それがやっとだったらしく。


動揺したように視線を逸らして
口を閉じる。






…そりゃそうなるよね。


だって私たち今から
その人に会いに行こうとしてるんだもん。








「でもそれは私が学生の時で…
今はもう何もないから。」

「………。」

「それにあっちも
私のこと何とも思ってないの、ずっと。」







そう説明するけど

彼は頭にその言葉が入っているのかいないのか
よく分からない感じで

ただ言葉を詰まらせていた。







「……じゃあ何で、今から行くんだ?」







そしてやっと出た言葉がこれだった。







「あの人…大学をアメリカ留学してて
最近やっとこっちに戻ってきたらしいの。」

「………。」

「それでおーちゃんが知らせてくれて…
久々に知り合いに会いたいんだって!」







と私が何もないから大丈夫、と
安心させるように小さく笑うけど


やっぱり彼の顔は晴れなくて。





……嫌、だよね…。








「………。」

「……分かった、行こう。」







(---------え?)






お互いに黙っていると

不意に律樹が私に言った。





私が目を丸くして彼を見上げれば


ズボンのポケットに片手を突っ込みながら
もう片方の手で頭を掻いていた。








「…ずっと会ってねぇんだろ?
だったら会いに行ってやろうぜ。」

「…で、でも…。」

「大丈夫だ。
…ただ少し、驚いただけだから。」







そう言って立ち止まっていた彼が歩き出して

私のところまで来ると
そのままガシッと頭を掴まれる。








「…っていうのはやっぱ嘘。」

「っ、え…?」

「少し嫉妬してた。」






だから…








「ここで1回、キスさして。」








そう言った彼がそのまま

私の腰に手を回して




私の体を抱き寄せて
唇を、重ねた。