それは小さなきっかけだった。

隣の席だった男の子が偶然私の消しゴムを拾ってくれた、ただそれだけのこと。
その横顔や、仕草、鼻の輪郭や睫毛の長さ。
窓の光とカーテンを揺らす風が吹き抜けた瞬間のタイミングが悪かったのだと思う。
彼の姿がより一層、はっきりと目に焼き付いてしまった。

「はい。」

彼の手の中には私の消しゴム。
私が触った後の消しゴムを彼が触っている。

「ありがと。」

あぁ、これが恋か。
そう思った高校3年生の春だった。