初めて恋をした時

この一瞬がかけがえのない時間なんだと

高校三年の冬


わたしは、知った。



進路、仕事、進学、18歳。
選択の日が刻々とせまる。

(つい最近まで、中学生だったのになぁ)
(あっという間だった)


「えー、と。多岐は、美術大学進学を希望だそうだが。いいんだな」


「はい。美術の道に進むことは、昔から決めていた事なので」

こうしている、時間も、迷っていられる時間も。
全部あっという間。


恋なんて。してる暇なかった。



「先生、今日も美術室借ります」

「帰り遅くならないよーにね。」

「失礼します」

「あっ、綾先生いるかもしれないから、鍵そこに無いかも。」


「…わかりました。」


たんっ


一歩ずつ近づく。
あの時間に。


「…、」


無言のまま私と先生は、ただ描き続けていく。


6時の下校のチャイムは、

先生とのさよなら。

たんっ



また、一歩ずつ遠ざかる。

あの時間から。







「受かるといいな。美大」


「…はい」
こんな言葉に儚く苦しい想いが漂う

なんで、今なのか


どうして


もっと早くに


「…っ、先生。好きです」
気づかなかったのかな


「ごめんな」
そしたら少しは、

もっとこの時間が続いていたかもしれない

「いえ、いえてスッキリしました。」
かけがえのない。
時間は、あっという間に淡い思い出になって

いくのだろう。


(「先生、もし、私が先生と違う出会い方をしていたら…違いましたか?」)





なんて

言えない 言えば、変わるなんて無い

私は、先生にふられたんだ

「うっぅ…、あぁ…」





泣いて
泣いて。

家に向かう。

夕日が
いつもより

大きく、
強く心に残った
「きれ、い」



先生への想いは、本物だった

ちゃんと
恋した私がいたんだ、
かけがえのない、時間




桜が

ゆらゆら

まだ、肌寒い。


「三年なんてあっという間だった。」
ただ、今思えばあの時告げる事が

一歩前に進む架け橋になった。

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卒業式



「先生、今までありがとうございました」



一歩ずつ未来の自分に
変わっていく。
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ーーーーーーーーーー********終わり