俺の様子に気づいた隣の人が呼んだのか、救急車が来て俺は車内でも離す事なく母さんの手を握っていた。



母さんが死んだなんて思いたくない。


はやく目を覚ましてくれよ…。



だけど、おれの願いは届く事なく
母さんが運ばれた部屋から白衣を着た医者が廊下の長椅子に腰をかける俺に一息おいて話し出す。


『残念だが、お母さんはもう…』



予想はしていたものの、医者の口から聞くと認めざる得なかった。




母さんの最期の姿を見にと医者に病室へと俺は案内された。




母さんは細かった。でも今までそんなハッキリと見てはいなかった。




布団の横にあるこの世のモノとは思えないくらいに、骨と皮だけの様な手。




俺の中の『細さ』と現実の『細さ』は全く違っていたんだ。




医者によると1年前から母さんはこの病院に通院していたらしい。


理由は肺癌だった。


1年前に病院に来た時は既に末期でいつ死んでもおかしくない状態だったという。

今すぐにでも入院して抗がん剤治療を薦める医者に母はそれ以上に強く反対したと言う。


『息子が…いるんです。息子にこれ以上寂しい思いをさせたくないんですっ…』


母さんはそう言っていたらしい。


そして医者もその意思に任せ、代わりとして何種類もの薬を出していた。



母さんは自分の命が短い事も分かっていた。

きっと、すごく苦しかったに違いない。


それでも母さんは最期の最期まで俺の事しか考えていなかったんだ。



「…ごめん母さん、ごめんなさい母さんっ…」



泣き崩れる俺に医者は今日の朝、倒れる前に母さんに俺宛に預かったという手紙を渡してきた。