俺は力なく母親の待つ家に帰った。
「た…だいま」
「おかえり〜悠。もうご飯出来てるよ!」
いつもと変わらない笑顔の母親。
そっか。知らないんだ父さんのこと。
苦しかった。
苦しくて血が出るくらい唇を噛み締める。
視界には涙が滲む。
「悠?どうしたの?」
心配そうに俺に駆け寄る母親。
せめて母さんの前では笑顔でいなくちゃ。
「何もないよ。それより花。俺からの誕生日プレゼント」
そう言って母親の手に持たせると涙を流しながら喜んでくれた。
「悠…ありがとうねえ、こんな…」
そんな顔みたら、今まで我慢していた涙が一気に溢れてきそうになった。
「泣くなよ。それより早く飯食おうぜ」
俺はそう言ってテーブルに向かう。
俺と母さん、そしてもう1人分にはラップがかかっていた。
母親は花瓶にバラを差しながら
「お父さんね、今日もどうしても帰れないって…さっき連絡があったの」
悲しそうに母親はそう言った。
母さん…まだ父さんのことが好きなんだ。
好きだからここまで信じていられるんだ。
でもね母さん。
父さんにはもう別の家族がいるんだ。
もう母さんの所には2度と戻ってこないんだ。
父さんは俺たちを裏切ってるんだよ…。
