誰かを待っている様子だった。
いつの間にか止んでいた雨に冷やされた空気は4月でも冷たかった。
手がすぐにかじかんでしまう。
中に入って待てばいいのに…。
仕方ない!あたしはそれだけを言いにその人影に近寄る。
近寄ると店の光がその人影を照らす。
あたしは目を疑った。だってなぜかあの男がいたから。
真っ赤な頬で、ずっと外にいた様子だ。
「なに…してんの?」
「いや、おまえ傘持ってなかったろ?だからバイト終わるまで待って傘貸してやろうと思ってたんだけどよ、待ってるうちに止んじゃったって訳」
そう言うと彼は初めて笑顔を見せた。
今日はじめて顔を合わせた人のために1時間以上もこんな寒い外で待つなんて人
この世界どこ探してもこんなお人好しはいないだろう。
意味わかんない。馬鹿じゃないの
彼の笑顔に、自然とあたしまで自然と笑顔になる。
「おまえ、いまっ…」
『ぐうううぅぉぉ〜〜』
その音にあたしは恥ずかしさのあまり顔を隠した。
「…さっ、最悪…っ」
「ぷっはははは!でっけえ腹の音!はじめて聞いたぞこんな音」
お腹を抱えて笑う彼。
見た目からは想像もつかないくらい無邪気な姿だった。
「しょうがないでしょ!昼から何も食べてないんだならお腹だって空くよ!」
「そりゃー腹も減るわ。よし、俺んち来いよ」
?!?!!!!?
「はあ!?なんでそうなるのよ」
あたしは戸惑った。
今日知り合った人の家に行く!?
しかも男の家!?
しかもこいつ!!?!
「ほら、早くしろよ!」
「ちょっと…!!」
あたしに考えさせる間もなく彼はあたしの手をひっぱりズカズカと歩き出す。
あたしが抵抗した所で離れるような力じゃなかった。
仕方なく黙ってついて行くと、一軒のマンションに着いた。
あたしの住んでいるボロアパートとは比べられないくらい高そうなマンション。
思わず一番上を見上げていると、
彼は入り口からエレベーターに入ると階のボタンを押し、口を開いた。
「何もない部屋だけど、気にすんな」
そんな事気にするもなにも…
そこじゃないんですけど…
あたしは覚悟を決めて部屋に行く事にした。
ヤるなりなんなり、勝手にしてくれ。
