夜一と話さなかったのは、前からだし。

教室の中にいても何も変わらない。

ぎこちないこともない。

お互い話しかける用事もない。

ただ、日曜日に会うことがなくなった。それだけ。

新緑の芽が出た。と、思ったのは、体育館の横にある桜が葉をつけたからだ。それなのに、枯れ木を見るように切なくなる。

体育館に着くと、祢音が思いだした顔をした。

「そういや、昨日。
なんだっけ、あたしの隣の席の人」

「多岐川くん?」

「ああそうそう。
多岐川くんだ。
良かった。すっきり」

「多岐川くんがどうしたんだよ?」

「駅前の画材屋で見かけた」

「画材屋?」

「うん。最初、見たことあるけど誰だか思いだせなくてさ。
小一時間程モヤモヤしてたんだよね。
顔はね、隣の席の人ってやっと分かったんだけど。
名前が思い出せなかった。
あーやっとすっきりした」

「へー。なにしてたんだ?」

「なにしてたんだろ?
そこまで見てないけど。
買い物かな?
でも、なんか、ああいう場所似あうよね。
主みたいだったよ」

絵なんか描かないって言ったのに、夜一はどうしてそんなとこにいたんだろう。